認知症の症状にもそれぞれ個性がありますが、中には誰もコントロールできないほどのイライラや怒りをぶつけてしまう方もいらっしゃいます。
ご家族の方からすると、一生懸命に介護をしているのにそんな態度を取られてしまったら、とても悲しい気持ちになると思いますし、疲れが溜まっていたら強いストレスを感じることと思います。
先日、すぐに怒鳴る認知症の方を穏やかにする方法を記事にしましたが、今回は「どうしても穏やかにならないとき」にフォーカスしてお話していきます。
すぐに怒鳴る認知症の方を穏やかにする方法については下記の記事をお読みいただけたらと思います。
すぐ怒鳴る認知症の利用者さんが一瞬にして穏やかになったその戦略とは?
続きを見る
ストレスは蓄積され、発散がなければ溜まり続ける
これは私たちにも同じことが言えるのですが、ストレスというのは蓄積されていくもので、その蓄積されたものを発散していかなければ溜まり続けてしまうんですね。
コップの水をイメージしていただけるとわかりやすいと思います。
水がポタポタと流れ落ちる蛇口の下にコップを置くと、少しずつではありますがコップに水が溜まっていきます。
満タンになったらコップが自動で伸びてくれればいいんですが、そうも行かず、コップから水が溢れます。
この状態を私たちの感情に照らし合わせると以下のような状態になります。
些細なことでイライラしがち
楽しいことを楽しいと思えない
人や物事の悪いところに目がつく
不幸の数を数えてしまう
私たちがこうなってしまうのと同じように、認知症の方も同じなんですね。
さらに、水が溢れてしまったコップに、蛇口を勢いよく捻って水を出したらどうなるでしょうか。
大量の水がすでに溢れているコップに突き刺さり、多くの水が流れ出ます。
この状態が、怒りが爆発した状態です。
つまり、認知症の方が聞く耳を一切持てずに怒りが抑えられない状況は、そもそも溜まっているフラストレーション(モヤモヤやストレス)に、ダメ押しの如く強いストレスを感じたときに引き起こることが多いんです。
私たちはストレスが溜まったら美味しいものを食べたり、行きたい場所に行ったり、好きな人とデートしたりすることで、少しずつストレスを発散していくことができます。
ですが、お年寄りになってしまうとなかなか思うように体を動かすことができません。
とくに認知症の方は数分前の出来事を忘れてしまう傾向にあります。
そのため、美味しいものを食べても「まだご飯食べてない」と怒ったり、お散歩に行っても「なにもしてないからつまんない」と怒ったりしてしまいます。
私たちから見ると小出しにストレス発散をしてもらっているつもりでも、認知症の方(当事者)からすると記憶に残っていないことが多いので、残念ながらストレス発散にはなっていないことがよくあることなんです。
一気に水を入れたあとは隙間ができる
さて、コップの話に戻りますが、
先ほどの「水が溢れてしまったコップに、蛇口を勢いよく捻って水を出したら」の部分を、「水を勢いよくドバっと出してすぐに止める」に変更するとどうなるでしょうか。
一度に多くの水が溢れますが、出てきた水の勢いに押されてコップに少し隙間ができます。
メモ
実際にやっていただくとわかりやすいので、満タンに水を入れたコップに水を勢いよく出してすぐに止めてみてください。そうすると、満タンだったコップが、もう少し水を入れることができるくらいに隙間ができているはずです。
こんなことってありませんか?
つい怒鳴っちゃったけど、そのあと冷静になれた
一度はきっとあると思うんですが、この水の例えは私たちの人間心理のこの感覚に当てはまるのです。
認知症の方も同じです。
ご家族様から聞いた話ですが、「もういい!出ていく!」と急に怒り出してしまい、どうにもこうにも止められなくなってしまったことがあったみたいなんですね。
男性であれば力が強いので女性1人で止めるのは難しいでしょうし、お年寄りはアザが出来やすいので力の入れ具合が難しく対応に困ったりすることもあると思います。
感情を爆発させてあげるのも優しさのひとつ
こういうどうにもこうにも怒りをコントロールできなくなってしまった場合は、一度爆発させてしまったほうが良い場合もあるんです。
言い方が悪いかもしれませんが、グツグツと長い期間煮えたぎる思いをさせるなら、激しめに怒らせてしまったほうがスッキリし、そのあと冷静になれることが多いんです。
認知症の方が「出ていく!」と言うのなら、転倒やケガだけには気をつけて一度好きなようにさせてあげることもひとつの手です。
本当に1人で出て行かせてしまうと迷子になってしまうこともあるので、そこは注意が必要です。
一度好きなようにすることで、少しずつですが冷静さを取り戻します。
このタイミングを見計らって、「1人じゃどこにも行けないでしょ?今日はもう帰ろう?」と声をかけてあげたり、「ごめんね、言いすぎちゃったね。なにか嫌なことがあるの?」と声をかけてあげるんです。
すると、「いつもいろいろしてもらってるのにこっちこそごめんね」と謝ってくれたり、「◯◯が私は嫌なの」や「◯◯がしたいの」という本音を話してくれたりします。
いくら愛する家族であっても、毎日繰り返される介護は本当に大変です。
介護をする側がストレスや疲れを感じてイライラしてしまうのはもちろんのことなんですが、視点を変えると、介護されている側も大きなストレスや不安、不甲斐なさを感じていて、それがストレスになっていると思うんですね。
ましてや家族なので、ときには本音でぶつかり合うことは良いことだと思います。
きっかけがないと感情を表に出すことができないことがあります。
そのきっかけを与えて、怒りを一度爆発させてあげることで認知症の方はどうにもならないイライラや苦しみから少し開放されるかもしれません。
勇気のいる選択かもしれませんが、これもご家族様だからこそできる優しさのひとつなのかなと思っています。
チャレンジの際は安全面にはご注意を
今回は、ご家族様からのご相談に対して実際に人間心理のアドバイスさせていただき、効果の発揮が確認できたものをコンテンツとしてまとめました。
ですが、すべての認知症の方に当てはまるという保証はありませんし、なおかつ、状況により転倒やケガのリスクがある場合があります。
この記事をお読みくださっている方へお願いですが、
イライラが長く続いているとき
安全面がある程度確保されているとき
など、どうにもこうにもならない「最終手段」として捉えていただけたらと思います。
私たちのデイサービスをご利用中のご家族様につきましては、お困りのときは私たちにご相談いただくか、担当のケアマネージャー様にご相談ください。
その他の方につきましては、ご利用中の介護施設や担当ケアマネージャー様にご相談いただき、適切な対処法をお聞きになってくださいね。
ひとりで悩まずひとりで抱え込まず。
共有できる人たちと共有し、みんなで向き合っていきましょう。